「五輪」の和をふりかえると コラムvol.7

「五輪」の和をふりかえると コラムvol.7

by 山田智也 2024年8月27日 ≪Column vol. 7≫

パリ五輪2024が閉会しました。ここでは言い尽くせない名シーンや、いろいろなドラマがありました。選手のみなさん、本当にお疲れ様でした。そして、胸が熱くなる感動をたくさんありがとうございました。これからパラリンピックが始まります。

パリの地で、選手のみなさんにとって、素晴らしい大会となることを心より願っております。東京五輪2020が開催された2021年の夏、世界はコロナ禍の真っ只中でした。東京都に緊急事態宣言が発令され、東京都内と近隣3県では無念の無観客開催が決まりました。そして、聖火リレーも予定通りできず、多くのパブリックビューイングも中止となり、オリンピックに向けて海外から来日する予定だった人たちのために、英語でプラカードを準備し、単語帳に日常会話をメモして準備したタクシー運転手さんや、国立競技場近くのラーメン店が食券機に英語でメニューを準備したり、そういったいろいろなミクロの準備がすべて水の泡になってしまいました。

飲食店はアクリル板で覆われて、営業時間に制限。夜の街は明かりが灯らずに暗く、人通りはまばら、そしてなにかこう、コロナによる社会の閉塞感と、世の中のムードが一気に暗くなった時期に日本各地のオリンピック会場では競技者と運営者のみで競技が進行され、我々はそれをテレビやデジタル配信で観戦するという状況。毎日報道される都道府県別の感染者の数、そして切迫した空気と緊張感が漂う、病院と医療従事者の方々の日々の戦いの様子がニュースで流れました。

今、思い出すだけでも、東京五輪が開催できたこと、そして各競技での参加選手たちの競演が、どれだけ私たちに希望をもたらせてくれたことか。そう考えると、IOCや当時の東京オリンピック組織委員会などの主催者および運営陣のみなさんに、あらためて感謝です。

当時、菅首相は東京五輪2020の延期開催について、「緊急事態宣言の中で異例の開催となる」と認めたうえで、「世界で40億人がテレビを通じて視聴するといわれるオリンピック・パラリンピックには、世界中の人々の心を1つにする力がある。新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、世界が1つになれることを、そして人類の努力と英知によって難局を乗り越えていけることを、東京から発信していきたい」と思いを語りました。

国会では開催を中止すべきではないか、という意見や質問が飛び交い、開催の安全面の担保をどうするのか、中止になった場合の財政面のリスクについてどう考えているのか、などという反対意見が目立ちました。民間の団体による開催反対のデモもありました。また、オリンピック組織委員会の元理事による汚職事件もあり、スポンサー選定などに関する職務権限やスポンサー会社から受領した金銭が賄賂に当たるかどうか、が争点のようで現在も審議が続いているようです。

その背景には、オリンピックの正式種目のうちの一部で、プロアスリートが集う人気競技が、はからずとも、それぞれの選手達が広告塔となるスポーツビジネスが事実上成立していることがあります。また開会式や閉会式などにみられるセレモニーが、映画や音楽などのアートの演出で、エンターテイメントになっていて、そこに潜むプロモーション収入や制作にかかわる業務を受注する際の民間企業によるビジネスの誘致が後を絶たないことなどが要因のひとつであることは間違いありません。

わかりきってはいることですが、大切なことは、やはり選手たちの思いであり、国境を超えた各種競技の発展です。反対運動やコロナ禍で開催が危うくなっていた東京五輪では、当時出場が決まっていた日本選手たちが胸の内を語りましたが、中止してほしいという選手は誰一人といませんでした。

五輪の和は、オセアニア、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、南北アメリカの5大陸の団結とオリンピック競技大会に世界中から選手が集まることを意味しているそうです。本来、国を代表する志の高い選手達による神聖な大会であるべきですが、選手達の一部は不正薬物の使用疑惑や、プライベートでの不祥事などの話題も跡を絶たない状態です。

そして、出場選手による政治的な意見表明やデモンストレーションはパリ五輪でもありました。人種差別への抗議、特定の国家や政権に対しての主張もありました。意見や主張は大事なことだと思います。しかしせめて、他の競技者や観衆を前にしてするべきかどうかについては私はあまり賛成はできません。

これからもオリンピックは続きます。運営組織委員会と出場選手たちは、五輪の意味や目的を再認識して、舞台裏に潜む政治と金や不正、不祥事に対しては、関わる個々の自己規律をもって制御してほしいと思います。

「(五輪の)和を以て貴しとなす」の気持ちで大会運営と競技に集中できる環境を目指していただきたいと心より願い、4年後のロサンゼルス五輪を楽しみにしたいと思います。

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