by 山田智也 2025年1月6日 ≪Column vol. 11≫
ツルウメモドキは冬に柿色の丸い実をつけて咲きます。周りのほとんどの植物も落葉し、茶色がかった森に彩りをもたらします。元旦の朝にランニングをした帰り道の林でみつけました。この植物の花言葉は「開運」「強運」「大器晩成」とのことで、中国語では「南蛇藤」と書くようです。今年の干支である「蛇」の字も入っており、なかなか縁起が良い一年のはじまりを感じます。
激動の一年、とはよく言ったものですが、あえてここ数年をそれぞれ一年間という時間のくくりで俯瞰してみると、毎年毎年、世界の色々な場所で絶えず大変な問題が起こっています。自然災害、さまざまな社会問題、そして紛争の脅威とはいつも背中合わせであり、一難去ってまた一難という状況が続いている気がします。
2024年の政治の世界は、日本だけではなく、米国、英国、フランスなどでも与党が改選前に比べて議席を減らしました。与党や現職首脳への不満要因のひとつとして、世界のインフレ率の上昇で物価が高騰し、生活苦に対する国民の憤りであるとも言われていますが、まさしくポピュリズムと民主主義の「今」をみているようで、人々の不平不満による行き先を失ったエネルギーが世界を持ち上げて、また行き先のないどこかへ動かしているような感覚をおぼえます。
日本にいる私にいまなにができるかを自問自答します。何をしてよいのかわからない状況のなかで、不動一歩行千里(いっぽをどうせずしてせんりをゆく)という禅語があるようです。いろいろな解釈があるようですが、それぞれが出来る範囲で寄り添い、自分が元気になることで周囲を明るくし、それが巡って誰かの元気になることを信じることが大切です。一歩も動かずして、千里を行く、ということは極めて困難なことですが、心に思いを馳せて、今自分にできることを粛々とする一歩が大事という意味も含んでいるようです。不動産業界に関わる者のひとりとして、令和7年も一歩一歩向き合って色々な課題を解決して参りたいと思います。
不動産業界は、地価や建築費の高騰で都市部を中心に全体的なインフレが発生しています。その流れに身を任せて積極的な投資で資産を増やしている人は多くいる一方で、不動産を購入できる人と、そうでない人との格差もまた広がっている状況です。不動産は立地や形状の違いだけでなく用途を含めて多種多様です。自宅、別荘、賃貸アパート、分譲マンション、ワンルームマンション、駐車場、事業用ビル、ロードサイド店舗、借地、底地、などなど、色々なかたちになって常に変化する資産です。現金や有価証券との大きな違いとして、私達の日常生活において、その土地や空間を実際に利用するところが不動産の特徴です。春の入学や転勤に伴う引越し、結婚を期にマンションや戸建てを購入、子育てが一段落して手に入れた別荘、代々引き継いだり、新たに新築したアパートやマンションはもちろん、オフィスの移転、新店舗の開業、通勤で使う駐車場まで、さまざまな場面で私達の生活と共に基点となり得ているのが不動産です。
ファンケルの池森賢二氏は、不安や不満などの「不」の解消こそがビジネスの原点とし、化粧品業界の課題であった防腐剤や酸化防止剤などの添加物を多く含んだ化粧品によるアレルギーや肌荒れに悩む女性たちのために、添加物の入っていない化粧品を、使い切りのサイズで開発しました。「不」を発見し、シンプルに問題解決を考えると、既存の概念にとらわれないユニークな発想ができるという考え方です。その後、大手化粧品メーカーが無添加の商品を発売する流れもあったようですが、経緯を含めてファンケルの商品とは似て非なるものであり、後にファンケルがまた新たな商品を開発していく「まねをしない美学」のきっかけにもなったようです。
不動産業界では大手不動産業者にしかできないことがあります。反対に、私達のような地域の不動産業者にしかできないことも大いにあると信じております。私達の規模の会社が大手他社のまねをしてうまくいくことはあまりないと言ってよいでしょう。だからこそ、世の中の変化に学び、流れに身を任せながらも、ただ流されることのないように、現実をみてしっかりと考えて判断をし、ときに複雑な問題については白と黒をはっきりさせることだけを目標とせずに、人の心の機微を大切にして、表からみえない曖昧な部分の良さも理解しながら仕事に向き合って参りたいと思います。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。
2025年1月6日
有限会社エスク
代表取締役 山田 智也