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熱い夏に蜂に習うこと

Posted on 2026年8月4日 by TY

by 山田智也 2026年7月25日 ≪Column vol. 30≫

こう毎日のように暑いと、ただの「暑い」ではなくて「熱ッ」という表現の方がひょっとして好ましいと思ってしまうような天候が続いています。なるべく涼しいうちに、と朝6時台にランニングにいこうと家を出ても、アブラゼミの大合唱に始まりミンミンゼミの鳴き声が耳に入ってくるともう、走ろうと思っていた気持ちが萎えて、ついつい歩いてしまい、結果的にただの散歩になってしまいます。

夏は汗が出るからカロリーをたくさん消費していると勘違いしがちですが水分が抜けているだけです。結局は余計に食べてしまい、変わらぬままの体重計に示される数字。一層のこと夏バテになって食が細くなればいいのに、と願っても胃袋は言うことを聞きません。

食欲の秋を待たずして、常に食欲旺盛な46歳の夏を今年も元気に過ごしております。結局のところ、今年の夏もビールがとても美味しいです。

- 蜂に刺された痛い記憶はいつでも蘇る -

昨年の秋に箱根の山をハイキングしていた時に、妻の花子がスズメバチに頭と腕を複数箇所刺されてしまいました。毒が回って、上唇がしびれて少し半開きになり、さすがにまずいと思い、帰宅後に病院で薬をもらい事なきを得ましたが、今後また刺されるようなことがあればアナフィラキシーショックになる可能性もあるので要注意です。

悔しいですが、山中で彼らの領域を侵してしまったのは、やはり人間の方です。山道は慎重に、じっくりと観察しながら歩くことが必要です。私も大昔に一度、蜂との1対1の闘いに敗れて背中を刺されたことがあります。痛かったです。でもその後は割と高い勝率で仕留めることに成功しています。

蜂を退治するときはホウキや新聞紙を丸めた道具を使います。竹のホウキはあまり使わないほうがいいです。竹の枝の隙間に入って生きていることがありますので、叩くなら平たいホウキがおすすめです。

ジェット噴射をするスプレー缶を使うのは、個人的にあまり好きではありません。特に相手が我が家の庭に辿り着き、何度か下見をしたうえで、これからここで巣づくりを始めようとしているその相手に対して、化学的な方法で解決をすることが蜂に対してフェアではない気がしてなりません。

近くに道具がなく、何度か手で叩いたこともあります。でもほとんどは、お互いに刺し違えることなく、決着がつかず引き分けです。無駄な闘いは避けたほうがいいに決まってます。悪いのはだいたいが人間の方です。

横浜の保土ケ谷区川島町に「随流院」という曹洞宗のお寺があります。帷子川の近くに位置し、裏山を背負い、境内の庭木も美しく、境内はいつも手入れが行き届き、清らかな雰囲気が漂っています。

なんとなく、時より一人で訪れたくなる場所です。ある日の出社前、朝の7時台には、もうすでに「熱」過ぎたので、自転車で西谷の陣ヶ下渓谷の川の水に入り、顔も洗いリフレッシュをして、その帰り道に寺に立ち寄りました。久しぶりに坐禅をしようと思い、境内の椅子に腰掛けました。調身・調息・調心の3つのステップで身体(姿勢)、呼吸、それから心の順に整えてから坐禅に入ります。

以前、鶴見の總持寺で坐禅会や講習会を受けて胡坐(あぐら)をかく長めの坐禅を体験したり、別の機会で短い時間の椅子での坐禅もやってみたりしましたが、いずれも姿勢を整えて、呼吸を整えるあたりが一番重要です。あとは心を静めて自分だけの時間へと入っていきます。

最近溜まっているであろう己の雑念の数々を払うべく、さあここから始めようとしたその時に、右足の太腿の外側に違和感を覚えます。目を開けてみると、大きなスズメバチが手をスリスリしながら私の腿の上をトコトコ歩いているではありませんか。

そしてこともあろうにピタッと止まったと思ったら、その場で黒と黄色のしましま模様の腹をちょんちょんと動かして、まるでそのまま針を出して「お前のこの足にチクってやってやろうか?」というような動きを見せるではありませんか。一瞬で身の毛がよだち、汗がぶわっと出て私の防衛本能にスイッチが入ります。

この緊張感を相手には悟られまいと、へその下で組んでいた右手をゆっくりと解きます。張り手で真上から叩くかどうするか、でももし潰したときの勢いでそのまま蜂の毒針が刺さったら元も子もない。ならば、と中指をデコピンのかたちにして親指に力をためてジワリジワリと相手の頭に近づけます。そうです、一発で仕留めないと絶対に反撃される可能性があります。昔刺された痛みが頭をよぎります。

相手と私の中指の距離は、もうあと5センチほどでしょうか、親指のトリガーに一層力を込めます。さあ撃つぞ、御免!と思ったその瞬間に、ブーンと大きな音をたてて宙に舞い上がりました。飛び去った蜂は一瞬で見えなくなり、セミの鳴き声が空に響きます。

私の心は、もう坐禅どころではありません。でもおかげ様ですっかり雑念は晴れ、蜂と対峙した緊張感から解き放たれ、気分はすっきりして寺を後にし、会社へ向かいました。仕事でも私生活でも、思いもよらない出来事が、結果的に達成したかった目的のための手助けになっていることがあります。(若干、禅問答のような体験でした。)

西洋史学者の池上俊一氏は「時の共有」という表現を用いて

「かつてエジプトから太陽暦を学んだローマが整え、週と安息日の概念はユダヤ教に根ざし、アラビア数字はインドで生まれイスラーム文明が世界に広めた、そういった諸文明の精華が結晶した「時」を、今日も同じように刻みながら、私たちは地球の上に生きている。もう少し仲良くできないものか、人間同士また人間と自然が」と説きます。

世界には約2万種の蜂が確認されているようです。蜂と人間との関係で忘れてはいけないのことは、我々はミツバチからは蜜をもらい、ハナバチには受粉の手伝いをしてもらっています。スズメバチやアシナガバチが人間の敵なのかと考えてみると、実は(もちろん)そうではありません。

彼らは獰猛だと思われがちですが、成虫は甘いものを好み、花の蜜や樹液、果実の果汁を飲みます。そしてアオムシや毛虫、蛾の幼虫などを捕まえて、噛み砕き、それを幼虫に与えます。

結果として、人間の農作物や庭木を食害する害虫たちを駆除してくれる役割も果たしている、ということです。私たちにはエアコンがありますが、働き蜂は水を口に含み、巣に運び集め、なんと自らの羽をはばたかせて巣の温度を下げているという生態も発見されています。

蜂たちは、日の出から日没までそれぞれの仕事の役割を見事に果たし、それを休み無く繰り返します。その実直な勤勉さには、人間も習うところが大いにあるのではないかと思います。

Category: コラム / column

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