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言葉の軽み

Posted on 2025年8月26日2025年8月26日 by TY

by 山田智也 2025年8月26日 ≪Column vol. 19≫

本屋で平積みされていた俵万智さんの新書『生きる言葉』(新潮新書)を手に取りました。表紙の裏にはこうありました。

「スマホとネットが日常の一部となり、顔の見えない人ともコミュニケーションできる現代社会は便利な反面、厄介でもある。言葉の力が生きる力とも言える時代に、日本語の足腰をどう鍛えるか、大切なことはなにか―恋愛、子育て、ドラマ、歌会、SNS、AIなど、様々なシーンでの言葉のつかい方を、歌人ならではの視点で、実体験をふまえて考察する。」

便利な半面、厄介でもある ― まさにその通りだと頷きながら、ページをめくり、立ち読みのつもりがしっかり購入してしまいました。 私にとって「サラダ記念日」の人、という印象が強かった歌人の俵万智さんですが、この本はご自身の体験をもとに現代社会の日常のさまざまなシーンで「言葉」が、いかに生きたかたちで使われているのかを軽やかに描写し、短歌は日記のような独り言ではなく、誰かに届けたい手紙に近いというように、俵さんらしい表現もしてくれる一冊でした。

最近いろいろな場面で「コミュ力」が重要視されていますが、自分の気持ちや考えを整理して、シンプルに言語化して相手に届く形に調整する力が求められています。 LINEやXなどで頻繁に見られる短縮語は、時代とともにどんどん進化しています。ネット文化が生み出した新たな言語感覚、スピード重視、親しみや軽さが特徴です。

私自身、いわゆる家族のグループLINEなどに頻繁に出現する言葉たち

りょ(りょうかい)
おつ(おつかれさま)
しゃっす(おねがいします)

などにはもう慣れっこですが、これがこの後5年、10年でまた違う言葉に変わっていくのでしょうね。

絵文字(日本発祥の”emoji”は世界のUnicode規格にも採用され、標準語となった)やスタンプを折交えながら、必要な連絡事項を確認し合う、妻と子供のコミュ力の高い表現を眺めながら、スマホの画面を指でスワイプし、時折

「今日は遅くなります、ご飯はいりません m(_ _)m」

などと書き込み、既読スルーされている身分なので、私自身なんとも言えませんが、こういったことは教科書的に学べるものではありません。むしろ、日常の言葉のやりとりの積み重ねでしか育たない。そんな当たり前を、わかりやすくあらためて言葉にしてもらうと腑に落ちます。

「気分のアガる表現」という章も印象的でした。
メールの文末に「よろしくお願いいたします。」と「よろしくです!」ほんの一言の違いで、受け手の気分は変わります。言葉の温度調整とでも言うのでしょうか。最近仕事のメールにも、特に若い世代から「お伺いします!」、「すみません!」など、「!」の利用は頻繁に見受けられます。

「ラップも短歌も言葉のアート」という視点にもニヤリとしました。五七五七七とビートを刻む短歌と、自由に韻を踏むラップ。言葉は重くもなれば遊びにもなる。その軽さとリズムの中にアートの可能性があるのだと思わされます。

ここで一首

酷暑日に ざるを横目に すするのは かけ蕎麦に浸す 春菊の天

たまに立ち寄る関内の好きな立ち食いそば屋で、真夏の昼間に汗を拭いながらいただく「春菊天そば」が最高です。左右を見渡すと、ざる蕎麦や冷やし系の注文が多い中、やはり同じように夏でも「温そば」を食べている人を見かけると、自然と仲間意識が芽生えます。

「言葉は疑うに値する」 昨年ご逝去された詩人、谷川俊太郎さんへの敬意とともに語られる一節は、言葉は万能ではなく、いかに「わかりやすく言語化しました!」と思っていても、受取る人や状況によってズレが生じることが大いにあることを再認識しました。

本棚から谷川さんの詩集「二十億光年の孤独」を取り出して読みました。改めて、戦後の虚無感を、よりわかりやすい表現で描いた希望のある詩の数々であると思いました。忘れてはいけないのは世界では今もなお、戦争が続いているということです。

8月15日は長らく「終戦記念日」という言葉が使われてきましたが、戦後80年の今年の終戦の日は、これまで以上に、「戦没者追悼の日」、そして平和を祈念する日へとなりつつあります。「言葉の重み」を知る、戦争の体験者が減る中で、知らない私達が軽々しく語ってはいけないものを忘れつつあります。 ちょっと前までは、請求書や契約書に押す印鑑ひとつにも重さがありました。

今ではPDFや電子署名で完了です。裁判所ですら電子申請が当たり前の時代です。 もちろん嘆いてばかりでは前に進めません。デジタル化は不可逆であり、私たちの生活を豊かにしている面も大きい。ただ、重みのあった物事についてをどう、捉えていくのかが問われているような気がします。

言葉は、人を傷つけもすれば、人を救いもします。軽いからこそ届く場面もあれば、重くて伝わらない場合もあるでしょう。けれど、その軽さが安易に、そして軽率に悪い方に傾いたとき、壊れるものも計り知れません。便利さの裏側でわたしたちの想像力が試されているようなきがします。

「言葉より行動、私は行動しか信じない」

私の妻の一言が重く、そして明るく希望に満ちた道を示してくれます。

夏の読書感想文にお付き合い頂きありがとうございました。

Category: コラム / column

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